事業主が知っておくべき「ルール」があります

お店を開業したり、会社をつくって人を雇うと、経営者(事業主)としていろいろな責務が生じます。事務活動は、法律にのっとって行わなくてはなくてはならず、もし違反した場合は、損害賠償請求など民事上の責任を問われることもあります。「知らなかった」では済まされないことも少なくないので、起業前にある程度は調べておきましょう。とはいえ、会社や事業にまつわる法律はさまざまで、すべてを把握することはできません。ここでは、最低限押さえておきたいルールについてまとめておきます。

顧客情報の管理について

すべての事業者に個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)が適用されるようになりました。「個人情報」とは、生存する個人に関する情報で「ある特定の人物」だとわかるものをいいます。この個人情報保護法で定められたルールは、おおむね以下の通りです。

  1. 個人情報を取得するときは、何に使うのか目的を本人に伝える
    ※あらかじめ、ホームページや店頭で提示しておく方法もOKです。
  2. 取得した個人情報は、決めた目的以外には使用しない
    ※決めた目的以外に使いたい場合、あらかじめ本人の同意を得ればOKです
  3. 取得した個人情報は安全に管理する
    ※データで管理する場合は、パソコンのウイルス対策を万全にしたり、紙なら金庫などに保管する他、個人情報に関する社員教育の徹底も必要です。
  4. 個人情報を他人に渡すときは、あらかじめ本人の同意を得る
    ※法令に基づく場合など、同意が不要な場合もあります。
  5. 本人から個人情報の開示請求をされたら応じる
    ※開示のほか、個人情報の訂正を求められた場合には対応もしなければなりません。

個人情報を適切に取り扱っていることをお客様や取り引き先が知れば、あなたとあなたの事業に対する信用度が増します。面倒がらずにしっかりと対応しておきましょう。

広告宣伝の禁止事項について

広告には、消費者保護のためにさまざまな規制があります。その多くは景品表示法(不当景品類及び不当表示法防止法)という法律に定められています。例えば、一般に誤認されるような次の行為について規制しています。

1. 不当な表示の禁止

  1. 実際の内容よりも著しくよく見せる(優良誤認表記)
  2. 実際の取引よりも著しくよく見せる(有利誤認表示)
  3. その他、誤認されるおそれのある表示
具体例

・松阪牛でないのに「松阪牛」と表示する
・客観的な調査をしていないのに「売上日本一!」などと表示する
このようにウソや大げさな表現、まぎらわしい広告は景品表示法に違反する可能性が大きいです。

2. 過大な景品類の提供の禁止

顧客に対し、懸賞やプレゼントを提供する場合には上限があります。本来の商品の価値より大幅に高いものは禁止されますし、業種によっては個別の法律でさらに規制されていますので注意が必要です。

事業者がここに揚げたような不当な広告をすると、調査が入り、場合によっては措置命令や課徴金納付命令を受けることがあります。景品表示法はもちろんのこと、特定商取引法や消費者庁のガイドラインなどを事前にチェックしたり、専門家に相談してから作成することをおすすめします。

事業にまつわるさまざまな法律や規制

会社をつくったり、人を雇う場合に知っておきたい法律としては、次のようなものがあります。

会社法

会社の種類や設立・解散手続き、組織、運営、資金調達(株式、社債等)、管理などについて規律する法律です。会社にかかわる法律は多岐にわたり、取引においては、民法や商法、税制に関しては法人税法や所得税法などの知識も必要です。

労働基準法

人を雇う時の労働条件(最低基準)や雇用契約の締結、就業規則の作成など、会社や事業所の労働環境の管理責任者となる事業主が守るべきルールを定めた法律です。

独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)

公正かつ自由な競争を促進、事業者が自主的な判断で自由に商行為を行うことを目的とした法律です。独占的または協調的な行為を防ぎ、消費者の利益が損なわれていないよう、政策上から事業者に制約を課しています。

不正競争防止法

事業者間の公正な競争を国際約束の的確な実施を確保するため、他人の商品等表示(商号、商標、標章、商品の容器や包装、営業を表示をするものなど)と混同させるような同一または類似の表示行為などを規制する法律です。

特定商取引法( 特定商取引法に関する法律)

事業者の不適切な勧誘・ 取引を取り締まる「行為規制」や、トラブル防止・解決のための「民事ルール」(クーリング・オフなど)を定めた法律です。とくに、通信販売やインターネット通信販売の広告表示についての規制は確認しておくべきでしょう。

下請法( 下請法に関する法律)

大規模な親事業者から中小規模の下請事業者を守るために定められた法律です。親会社・下請事業者の資本金規模と取引内容によって、対象となる4つの取引と親事業者の11の禁止行為(不正な取り扱い)、そして違反した場合の罰則などが規定されています。
4つの取引=情報成果物作成委託、製造委託、修理委託、サービス提供委託

このほか、「食品衛生法」や「食品表示法」、「労働者派遣法」など、業種によって特別に適用されている法律もあります。

くわしいことを知りたい、わからないことや困ったことがあれば、法律のことなら弁護士、税金については税理士や公認会計士、行政手続きは行政書士というように、それぞれの専門家に早めに相談することで適切な対応ができたり、トラブル回避にもつながります。

人を雇用する場合に必要な手続き

雇用時に取り交わすべき書類・最低限のルール

事業が軌道にのったら、「人を雇う」ことも必要になってくるかもしれません。雇用とは、雇用主が「この仕事、この時間に、この場所で、このように進めて、ここまでやってください」と指揮命令して、労働の対価に報酬を支払う契約です。

ただし、スポット作用か継続的な雇用なのかによって手続きは違ってきますので、ここでは必要な書類と届け出を確認しておきましょう。

  • 継続雇用…期間を定めない雇用(正社員・無期のパート・アルバイト)
  • スポット雇用期間を定める雇用(契約社員・有期のパート・アルバイト)

継続的な雇用・スポット採用いずれも該当するもの

1.必要な書類

これらは「法定帳簿」といい、厚生労働省のホームページからダウンロードできます

労働省名簿

【記載項目】

  1. 労働者氏名
  2. 生年月日
  3. 性別
  4. 住所
  5. 履歴(社内の異動や昇進などの履歴)
  6. 従事する業務の種類
  7. 雇入年月日
  8. 退職や死亡年月日(その理由や原因)
出勤簿等

【記載項目】

  1. 労働日数
  2. 労働時間数
  3. 休日労働時間数
  4. 時間外労働時間数
  5. 深夜労働時間数
賃金台帳

【記載項目】

  1. 労働者氏名
  2. 性別
  3. 賃金の計算期間
  4. 労働日数
  5. 労働時間数
  6. 時間外労働時間数
  7. 深夜労働時間数
  8. 休日労働時間数
  9. 基本給や手当等の種類と金額
  10. 控除項目と金額

2.役所などの届け出

  • 給与支払事務所等の開設届→税務署
  • 労災保険の加入手続き:短時間スポット雇用でも労災加入は必要→労働基準監督署

3.従業員に渡す書類(会社でも同内容を保管)

雇用契約書(労働条件)

【記載項目】

  1. 労働契約の期間
  2. 就業の場所および従事する業務
  3. 労働時間や休日・休暇に関する時間(始業・終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日休暇等)
  4. 賃金に関する事項(賃金の決定、計算、支払い方法、締め切りと支払いの時期、昇給)
  5. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  6. その他の必要事項

継続的な雇用の場合

1.あったほうが望ましい書類

  • 入社時契約書
  • 身元保証書

2.役所などの届出

  • 社会保険加入手続(勤務時間・勤務日数が正社員の3/4以上=勤務時間が週30時間以上)→年金事務所
  • 雇用保険加入手続(勤務時間が週20時間以上かつ雇用期間が31日以上の場合)→ハローワーク

業務委託について

この他、雇用ではありませんが人に任せる方法としては業務委託という契約もあります。業務委託とは、自分で処理できない業務や委託したほうが効率や効果が期待できる業務を、外部に任せる際の契約です。依頼した仕事に対して報酬を払うのであって、仕事の仕方に対して指揮命令はしません。委託契約者は雇用に該当しないので、労働者名簿や出勤簿などは不要です。

しかし、トラブル防止のためにといったどんな内容の仕事をいくらでどのようなかたちで行い、いつまでに完了させるかなどを記した契約書をきちんと交わしましょう。「業務委託契約書」をきちんと交わしましょう。

では、ルールや法律を確認したら、STEP14の【開業前の最終チェック】へ進んでくださいね!

YUKI

Step14開業前の最終チェック